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2025年4月15日離職率は何を語るのか(バーナードの均衡論に学ぶ、組織存続の条件)

辞める理由は「不満」ではなく「期待の断絶」

社員が会社を辞める理由は、「もっと給料が高いところがあったから」といった単純な動機にとどまりません。むしろ、期待していたものが得られなかったことによる“期待の断絶”の方が本質的な理由であることが多いのです。このような現象を読み解く手がかりとして、経営学者チェスター・バーナードの提唱した「均衡論」があります。

彼は、組織が成立し、長く存続していくためには、「内部均衡」と「外部均衡」という2つのバランスが保たれている必要があると述べました。この均衡が崩れるとき、組織は人材の流出、すなわち離職率の上昇という形でその代償を払うことになります。

内部均衡の崩壊(報われない貢献は、やがて組織を去る)

内部均衡とは、社員が自分の貢献に見合ったリターンを得ていると感じられる状態を指します。リターンとは、給与や賞与といった金銭的報酬だけではなく、仕事のやりがいや承認、成長実感、キャリアパスの明示といった非金銭的な要素も含まれます。

たとえば、いくら努力を重ねても評価制度が不透明であったり、昇進や異動のルールが曖昧だったりすれば、社員は「ここで頑張っても意味がない」と感じ始めます。実際に、成果を上げていた社員ほど早く会社を離れてしまうという事例も少なくありません。さらに、育成や成長の機会が乏しい職場では、若手が「このままでは市場価値が上がらない」と不安を抱え、他社へ流れていきます。

社員にとっての「ここにいる価値」を明確にできていない組織では、内部均衡が崩れ、離職というかたちで代償を支払うことになるのです。

外部均衡の崩壊(会社の未来が見えないと、人は離れる)

外部均衡は、組織が社会や市場において存在意義を持ち、必要とされているかという視点です。社員は、自分が働く会社が社会的に評価されているか、成長していけるビジネスモデルを持っているかを見ています。

たとえば、変化に対応できず旧態依然としたビジネスを続けている会社では、特に将来に希望を持つ若い世代ほど不安を感じます。また、経営ビジョンが社員に伝わっていなかったり、企業理念が形骸化していたりすると、共感が得られず、社内の一体感も失われていきます。社会や顧客との接点が感じられず、「この会社にいて、何の意味があるのだろう」と疑問を持ったとき、人は離職という選択肢を取るのです。

外部環境に目を向け、事業の意義を定期的に見直すこと。これは経営者にとって避けては通れない組織維持の責務です。

離職率という“鏡”に映るもの

離職率は、単なる人事指標ではありません。それは、組織内部の設計や、経営のあり方そのものを映す“鏡”なのです。表面的な制度整備や福利厚生の拡充では、もはや社員の心をつなぎ止めることはできません。必要なのは、社員が「ここで働くことに意味を感じる」ような仕組みと文化の醸成です。

貢献に見合った評価、将来の見通しが持てるキャリア設計、そして会社の社会的意義に共感できる状態。それらがそろってはじめて、社員は「この組織に居続けたい」と思い、組織もまた長期的に存続していけるのです。

均衡が保たれている組織は、人が辞めない

バーナードの均衡論は、組織づくりの基本でありながら、現代の経営課題にも鮮やかに通用します。社員が安心して貢献でき、社会からも必要とされていると感じられること。この二重の意味での“バランス”を見失わないことが、組織を強くし、長く続けるための鍵となるのです。

社員が辞めるかどうかは、待遇の問題だけではなく、組織の根本的な“あり方”の問題です。その鏡である離職率の背景にこそ、経営者として真に見るべきものがあるのかもしれません。

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